死装束は左前?右前?着せ方や装具の種類、宗教での違いを解説
公開日:2024/03/05
更新日:2024/03/08
葬儀で故人をお見送りする際は、死装束をお着せするのが一般的です。しかし、死装束の考え方は、宗教や宗派ごとに異なり、お着せするものにも差があります。
そこでこの記事では、死装束の意味や宗教・宗派ごとの違いを詳しく解説します。死装束をお着せするタイミングや注意点、棺に入れる副葬品についても解説していますので、ぜひ参考にしてください。
こんな方にオススメ!
● 死装束とは何か知りたい人
● 宗教ごとの死装束の特徴を知りたい人
● 副葬品について知りたい人
● 死装束の着せ方、お着せするタイミングを知りたい人
死装束(白装束)とは?
死装束とは、亡くなられた方が身に付ける衣装のことです。宗教や宗派によって違いはありますが、一般的には白色の着物が用いられるため、白装束とも呼ばれています。
死装束は、故人があの世に旅立つ際の衣装であり、故人が清らかな状態で旅立てるようにという意味が込められているものです。
死装束の起源は明確ではありませんが、巡礼者や修行僧が着ていた白い着物がもとになっているという説があります。また、日本では古来から「紅白」には特別な意味があり、紅は生、白は死を象徴するとも考えられていました。
白い着物が一般的である死装束ですが、宗教や宗派ごとに、死装束の考え方や内容は異なります。
仏式の死装束
仏式の死装束は、麻や木綿でつくられた薄手の白い着物に経が書かれた「経帷子(きょうかたびら)」が基本となります。経帷子は、浄衣(じょうえ)や経衣(きょうえ)とも呼ばれています。また、経が書かれていない白帷子(しろかたびら)をお着せするケースもあります。
経帷子の着せ方は左前?右前?
経帷子は、襟合わせを「左前」にして着付けます。左前とは、着物を着用する人から見たときに、左側が手前に来る着付け方法です。
日本では、着物を着付ける際は襟合わせを「右前」にするのが基本です。しかし、死装束では反対の「左前」で着付けます。
死装束はなぜ左前できつけるのか、その理由は諸説ありますが、古来中国から着物が伝来した時代には、高貴な方は襟合わせを左前にするのが一般的だったといいます。そこから、亡くなられた方があの世に旅立つ際は、仏神に近い存在となるため、高貴な方と同じ「左前」で着付けるようになったといわれています。
ほかにも、あの世とこの世を区別するために、葬儀の際は通常とは逆のことを行う「逆さ事」からきているという説もあります。
また、経帷子に締める帯は、ほどけにくい縦結びにします。これは、故人があの世に旅立つ際に、途中で帯がほどけないようにするという意味があります。
死装束とともに身に付ける装具
仏式の死装束では、白い着物である経帷子(または白帷子)を着付けるとともに、さまざまな装具を身に付けます。これらの装具にも、故人があの世につつがなく旅立てるようにという願いが込められています。
編笠(あみがさ)
藁で編んだ笠です。
頭に被せるのではなく故人のお顔が見えるように添えるのが一般的です。
天冠(てんかん)・三角頭巾(さんかくずきん)
額に付ける三角の布です。三角の頂点が上に来るように額にあて、紐を結んで着用します。
天冠・三角頭巾の意味は諸説ありますが「冠を被せて故人の位や身分を高めるため」などといわれています。
頭陀袋(ずだぶくろ)
頭陀袋は、故人が身に付ける小物を入れる小さな袋です。頭陀袋のなかには六文銭を入れ、故人の首から下げますが、これは故人が三途の川を渡る際の賃金という意味があります。
手甲(てっこう)・脚絆(きゃはん)
手甲は手の甲を守る武具であり、脚絆は脛を守る脛当てのことです。
数珠
数珠は念仏を唱える際に使用する法具であり、煩悩を消し心身を清めるためのものです。死装束では、故人が生前に使用していた数珠を手に持たせます。
足袋・草履
死装束では、故人があの世への旅路を安心して歩けるようにという意味を込めて、足袋と草履を履かせます。足袋は白いものを選びましょう。
杖
巡礼者が用いている杖を、棺の中に添えます。杖は故人のあの世への旅路を支えてくれるものです。
宗旨・宗派での死装束の違い
仏式の死装束は、宗旨・宗派によっても違いが見られます。
例えば、同じ経帷子でも、真言宗では生前に信者が四国八十八ヶ所霊場を巡礼して白い衣に御朱印を押し、それをご自身の経帷子として用意される方もいます。日蓮宗では、日常の修行の際に身に付ける行衣に、十戒曼荼羅(じっかいまんだら)を書いたものを経帷子とします。
また、浄土真宗では「亡くなられた方はすでに成仏して浄土にいる」と考えられているため「あの世への旅立ち」という概念がありません。そのため、一般的な仏式の死装束をお着せするのではなく、白い洋服や生前に故人が気に入っていた服などを着用します。また、着物をお着せする場合も、襟合わせは左前ではなく生前と同じく右前で着付けます。
神道の死装束
神道の死装束は「神衣(かむい)」と呼ばれる神主の服に似た衣装をお着せします。また、神道の死装束は、男性と女性とで異なります。
男性は、白い狩衣(かりぎぬ)と呼ばれる公家の衣に烏帽子(えぼし)を被り、手に笏(しゃく)を持ちます。女性の場合は、白い小袿(こうちき)と呼ばれる女性ものの衣を着用し、手に扇子を持ちます。
神道では、亡くなられた方は一族を守る氏神になると考えられています。そのため、氏神にふさわしい神衣を着用するのです。
キリスト教での死装束
キリスト教の葬儀では、死装束という考え方はありません。そのため、故人が生前好んでいた衣服を着用します。ただし、普段着ではなく黒のスーツなどシックな服装が選ばれるのが一般的です。
また「エンディングドレス」という選択肢もあります。エンディングドレスは、故人をお見送りする際にお着せする服であり、襟もとに花の刺繍やフリルがあしらわれたものなど自然な華やかさがプラスされたタイプも見られます。
その他の死装束
無宗教の葬儀の場合や、キリスト教葬儀で故人が若い方の場合などは、生前に好んでいた服を着用するケースもあります。亡くなられた方を送り出す最後のお別れの儀式なので、その方らしい服装でお見送りするのがいいでしょう。
死装束をお着せするタイミング
死装束をお着せするのは、亡くなられてすぐのタイミングではなく「納棺の前」が一般的です。納棺は、お通夜の2時間前を目安に執り行われます。現在では、ご遺族が死装束をお着せになるのではなく、葬儀社の担当者がお着せします。
故人の体は、亡くなられた2時間後くらいから、死後硬直が始まります。納棺の前のタイミングには、死後硬直で体が硬くなっていることもあり、スムーズに死装束をお着せするためには専門的な技術が必要になります。
また、死装束は宗教や宗派によって、細かな決まりがあります。そのため「故人が生前好んでいた服を着用させたい」などの特別な理由がない限りは、葬儀社が用意するのが一般的です。
一般的な死装束以外を選ぶ際の注意点
死装束以外の服装を選ぶ場合は、次の3点に注意しましょう。
ご遺族・ご親族の了解を得る
故人やご家族の希望や葬儀の種類に合わせて、一般的な死装束以外の服装を選ぶ際は、あらかじめ親族の了解を得ることが大切です。
死装束には、故人が清らかな状態であの世に旅立つという意味があり、宗教や宗派によって、特別な役割を持つケースもあります。そのため、死装束以外の服装に抵抗を感じる方もいるかもしれません。
特別な服装を選ぶ場合は、事前にご遺族やご親族に相談しておきましょう。
安全に火葬できる服装を選ぶ
死装束は、故人にお着せしてそのまま火葬します。そのため、燃えにくい金属や高温でも溶けない樹脂などが付属した衣類は避けましょう。
納棺前にお着せしやすい形を選ぶ
納棺前にお着せすることを考えると、前開きのブラウスやシャツなどの形状が適しています。また、生前と体形が変わってしまっているケースもあるため、体にフィットしすぎるような服装や露出の多い服装は避けたほうがいいでしょう。
一般的な死装束以外の服装を選ぶ場合は、事前に葬儀社に確認をしておくと安心です。
棺に入れる副葬品とは?
葬儀の際、故人は死装束を着用し納棺されます。ただし、棺の中には、死装束とその葬儀以外にも「副葬品」を入れることが可能です。副葬品は、故人と一緒に棺に入れられ火葬されます。
● 故人の愛用の品、趣味の品
● ご家族からの手紙
● 思い出の写真
● 故人が好きだった花
● 御朱印帳・納経帳 など
ただし、副葬品は故人と一緒に火葬されるため、安全上、入れてはいけないものもあります。主には、燃えない金属やガラス、爆発の危険性がある密閉容器やボール、燃えにくい書籍や布団、厚手の衣類、水分の多い食べもの、高温で有毒ガスが発生するものです。
故人と一緒に棺に入れたいというご要望が多いものの、副葬品として入れられないものの例を挙げました。
● メガネ
● ゴルフクラブ
● 釣り竿
● ラケットやバット
● スイカやメロン
● 大きなぬいぐるみ
● アルバム など
上記の中には、故人の愛用の品、趣味の品、大切にしていたもの、好きな食べ物などがあるかもしれません。しかし、残念ながらこれらの品を副葬品とすることはできません。副葬品として棺に納めたいものがある場合は、事前に葬儀社に相談しておくことをおすすめします。
【まとめ】死装束は故人を見送るための大切な衣装
死装束とは、故人があの世に旅立つ際に着用する衣装のことです。一般的には、白い薄手の着物をお着せするため、白装束とも呼ばれています。死装束に対する考え方は、宗教や宗派によって異なり、その内容にも違いがあります。
死装束には、細かなルールがあるため、葬儀社が用意して葬儀社の担当がお着せするのが一般的です。また、近年では、死装束ではなく故人が生前好んでいた服を選んだり、エンディングドレスと呼ばれる専用のドレスを選ぶケースもあります。
死装束は、故人を見送る大切な衣装です。その意味合いを理解して、心を込めて故人をお見送りしましょう。
葬儀の準備にご不明点などございましたら大野屋の事前相談を是非ご利用ください。